発見と論文

Discoveries and Papers

2020.12.14

Front Cell Dev Biol. 2020 Sep 11;8:855

Front Cell Dev Biol. 2020 Sep 11;8:855

Distinct Functions of Acyl/Alkyl Dihydroxyacetonephosphate Reductase in Peroxisomes and Endoplasmic Reticulum

本庄雅則、田中恵美、ラファエル・ゾエラー、藤木幸夫

要旨

プラズマローゲンは、グリセロール骨格のsn-1位にビニルエーテル結合を有するリン脂質である。7つのステップを経て生合成されるプラズマローゲンは、まず細胞小器官ペルオキシソームでその生合成が開始され、4番目以降のステップは小胞体においてなされる。このプラズマローゲン生合成の3番目のステップを担う酵素であるアシル/アルキル-ジヒドロキシアセトンリン酸還元酵素(acyl/alkyl-dihydroxyacetonephosphate reductase; ADHAPR)の活性は、ペルオキシソームと小胞体に見出されている。今回、私たちはADHAPRをコードする遺伝子を同定し、ADHAPRの細胞内局在化機構と活性発現機構を明らかにした。

 まず、野生型細胞のADHAPRの発現抑制は、プラズマローゲンとホスファチジルエタノールアミン(PE)の生合成を低下させ、ADHAPR活性を欠損するADHAPR変異細胞(FAA.K1B)と同様の表現型を示すことを見出した。次いで、この変異細胞FAA.K1BのADHAPRをコードするゲノム領域にミスセンス変異を同定した。さらにADHAPRタンパク質は、ペルオキシソームと小胞体に局在することを明らかにした。これらの結果から、ADHAPRがプラズマローゲン生合成の3番目のステップを担うタンパク質であると結論した。

次に、ADHAPRは、アミノ末端(N末端)の疎水性領域を介して膜に挿入されるI型膜タンパク質としてペルオキシソームと小胞体に局在することを示した。加えて、ADHAPRは、ペルオキシソーム膜タンパク質の細胞質受容体であるPex19依存的にペルオキシソームへと標的化し、小胞体へはシグナル認識粒子(SRP)依存的に挿入されることを見出した。

ADHAPR膜貫通部の上流の親水性領域のみを欠損させた変異ADHAPRは、ペルオキシソームへの局在性が著しく低下し、小胞体へ優先的に局在化した。この変異ADHAPRはFAA.K1Bのプラズマローゲン合成抑制を回復した。一方、全長ADHAPRの発現は、プラズマローゲンの生合成を抑制し、PEの合成を促進した。これらの結果は、小胞体に局在するADHAPRがプラズマローゲン合成の3番目のステップを触媒することを示唆している。