発見と論文

Discoveries and Papers

2020.12.25

ホタテ由来プラズマローゲンの中等症・重症アルツハイマー病における行動・心理症状への効果

第18回日本機能性食品医用学会総会での発表内容

藤野 稔、若菜智香子、新福尚隆、藤野武彦

目的/プラズマローゲン(Pls)は、sn-1位にビニルエーテル結合を有するグリセロリン脂質の一種である。これまでにアルツハイマー病(AD)患者の脳と血液中においてPls濃度が低下していることが明らかとなり、PlsとADとの密接な関係が示された。我々は最近、AD動物モデルでの研究およびヒト軽度認知障害(MCI)、軽症ADでの無作為化比較試験においてPlsが認知機能を改善することを報告した。さらに、中等症から重症ADに対するオープンラベル試験でPlsの認知機能(中核症状)改善効果を報告したが、今回行動・心理症状(BPSD)への効果を検討したので報告する。

方法/中等症AD48名(MMSE11~19点、男性20名、女性28名、平均年齢78歳)と重症AD16名(MMSE10点以下、男性6名、女性10名、平均年齢75歳)の計64名を対象に、ホタテ由来Pls0.5mg/日もしくは1.0mg/日を3か月間投与し、介護者に対する聞き取り調査によって前後比較を行った。評価対象の症状は、妄想、幻覚、抑うつ、睡眠障害、不安・不穏、徘徊、脱抑制、暴力・暴言・喚声、食行動異常、介護への抵抗、不潔行為の11項目とした。介護者により症状改善の度合いを点数(-2点から4点の幅)で判断してもらい、5段階(-1点以下を悪化、0点を不変、1点をやや改善、2点を改善、3点以上を著明改善)で評価した。

結果/5段階評価のうち、やや改善以上を改善者として評価を行ったところ、有症者における改善率はそれぞれ妄想48%、幻覚78%、抑うつ58%、睡眠障害34%、不安・不穏28%、徘徊50%、脱抑制18%、暴力・暴言・喚声72%、食行動異常25%、介護への抵抗50%、不潔行為100%であった。症状の悪化率は脱抑制9%、食行動異常8%、介護への抵抗8%であったが、他の症状では悪化は認めなかった。

結論/これらの結果から、ホタテ由来Plsの経口投与により中等症および重症AD患者のBPSDを改善することが示唆された。